Kevin Ayers - Joy Of A Toy

Joy of a Toy  正常な世界の人間にもシド・バレットの感性と共感できる人物が身近に存在していたことは非常に希有なことかもしれないが、その音楽性を今になって聴いてみれば妙に納得できてしまう。やはり類は友を呼ぶと云うか英国は広いと云うか…。60年代末期のUFOクラブに集結していた面々の中でも傑出していた存在のソフトマシーンから音楽性の違いで脱退していたケヴィン・エアーズとシド・バレットのバンド結成は今や幻で終わってしまったが、その断片がケヴィン・エアーズの「Joy of a Toy」のリマスター再発盤のボーナストラックとして「レリジアス・エクスペリエンス(朝に歌えば)(シド・バレット・セッション)」として収録されているので、こいつも聴き所。

 で、ケヴィン・エアーズの作品だが恐らく全く性格的には異なるハッピー主義のヒッピーであるケヴィンの音楽性と狂気の縁に追いやられているとイメージされているシド・バレットの音楽性に実に共通点が多く、なるほど一緒にやることにした理由もわかる。ケヴィン・エアーズも初期ソフツの中では煌びやかなポップ性を醸し出していたが、それを更に強調したかのような作品が「Joy of a Toy」で黄色いアルバム。オープニングは「Joy Of A Toy Continued」。「Continued」の意味はソフツのファーストアルバムに「Joy Of A Toy」(もちろんケヴィン作)が収録されているからだと思われるが、う〜む、まったく楽曲的に共通性がないというか、あまり根拠も意味もないような気もするのだが…。いずれにしてもケヴィンのソロ作の冒頭を飾るこの曲こそケヴィンのポップさを語るに相応しい名曲。誰でも口ずさめる「ら〜ら〜、らららら、ら〜ら〜ら〜。」ってのが良い。丁度シドのアルバムでの曲名が不思議なものが多かったのと同じようにこの人の作品も妙なのが多い。「ぶらんこの少女」とかさ。

これもねぇ、ソフツの面々がバックで演奏してると思うんだけどやっぱそれらしくてカンタベリーなんだろうな。あ、中ジャケにね、少女ではないんだけどブランコに乗った女性の写真とケヴィンがギター弾いてるモノクロ写真があるんだけどさ、コレってやっぱ女性は「レディ・レイチェル」の「歓びのオモチャ」なんだろうか?深そうだよな、こういう見方するとさ。他にも同時代のヴェルヴェッツの音楽性ともリンクしてしまう曲調の「狂気の歌」とか傑作「汽車を止めろ」とか…この曲、聴いてると何かホントに汽車が走っているかのような疾走感があって見事に音で世界を表現しているのに驚くよ。途中からの脱却具合も見事見事で笑っちゃうくらいに最高。しかし「エリナーを食べたケーキ」ってどんなん??でもね、聴いてるとそういう曲調なんだよ、こういうセンスってシドに相通じる部分、あると思うんだよな。そしてその「レディ・レイチェル」は重いメッセージをきっちりと伝えようとしているのか、ケヴィン独特の不協和音と反復メロディが世界を創り出していて、その熊内悪さが心地良い…ってわかるかなぁ、面白いんだよね、効果音や和音の使い方が普通じゃない(笑)。この辺から単に脳天気なだけではない、どちらかというとシリアスなサウンドが前面に出てくるんだけど「オレ・オレ…」なんてのは相当実験的で興味深い…こういうのをこのポップな作品の中に織り交ぜてしまうところもセンスだな。オリジナルアルバムの最後の曲はアコギで掻き鳴らされる「この狂おしき時」。う〜ん、シド的な作品。

 やっぱりケヴィンならではの意欲作となったファーストアルバムなんだけど、次作「Shooting at the Moon」でも名曲「May I」があるので外せないし、以降はやっぱり多種多様な楽曲を手がけていくことになるけどこの辺の初期作品は何でもありだから面白さが倍増だね。ジャケットもさすがなものでしっかりしてるし。永遠のヒッピー、まだまだ日本に来てライブで楽しませてほしいね。

Kevin Ayers - Shooting At The Moon

Shooting at the Moon  勝手な解釈なんだけど、シド・バレットとケヴィン・エアーズってセンスが似てるというのか同じ香りがするというのか…、一方は向こうの世界に行ってしまったけど一方は脳天気に同じような世界を披露しているというのか…。まぁ、印象だけなのでどこがどうというモンじゃないんで、多分ファンからしたら一緒にしないでくれというのもあるのかもしれない…。

Kevin Ayers And The Whole World - Shooting At the MoonShooting At The Moon

 そんなケヴィン・エアーズのソロセカンドアルバム「Shooting at the Moon」が1971年にリリースされているが、この時はバンドThe Whole World名義でのリリース。もちろんメンツは今となっては豪華なものでしてね、David BedfordにMike Oldfield、Lol Coxhill、Mick Fincherという面々に加えて何とBridget St Johnがゲスト参加、もちろんソフツの面々もサポートというような代物で、カンタベリー一派によるものなんだけど、ケヴィン・エアーズの場合はちょっとズレているのでカンタベリーの技巧派のあの音ではない。が、この「Shooting at the Moon」という作品はケヴィン・エアーズの中ではかなりアヴァンギャルド且つポップな作品であることは間違いないかな。それでもこれだけ聴きやすいポップなんだから凄いわ。

 そして才能が思い切り光っているのがこの頃多分10代だったと思われるMike Oldfield。もちろんソロデビュー前のセッション参加で、ここではベース弾いてるんだけどね、冒頭の超名曲でのある「Kevin Ayers And The Whole World - Shooting At the Moon - May I?May I」からしもベースラインが思い切り歌っているという天賦の才能をフルに出したセンス抜群のベースラインを聴かせてくれてます。これこそが曲の骨格を成すというようなベースラインを紡ぎ出しているんだから凄い。更に「Kevin Ayers And The Whole World - Shooting At the MoonLunatic Lament」っつう曲ではギターを弾いていて、そのギターソロがエキセントリックかつかなりクレイジーな音で弾きまくっていて、ぶっ飛ぶ。一体このMike Oldfieldって何者なんだ?と当時聴いていた人なら思ったに違いない。ケヴィン・エアーズの歌よりも全然目立ったアグレッシブなプレイがそこかしこで聴けてしまうというMike Oldfieldの裏ソロ作とも言えるかも。

 まぁ、アバンギャルド、っていうのは言い方なんだけど、「Shooting at the Moon」で聴けるアバンギャルド性って、明るくてハチャメチャな感じだからドイツのプログレとかとは違ってて、英国のお茶目なお遊びという感じなんだよね。それもセンスなんだが…、あまり気にしないで普通にヘンなポップとして聴いていればいいんじゃないかと。まぁ、ところどころかなりヘンにはなるんだが(笑)。  そしてこのアルバムの魅力は更にあって、英国フォークの女王という異名まで取っていたBridget St Johnという女性がB面一曲目「Kevin Ayers And The Whole World - Shooting At the MoonThe Oyster And Flying Fish」で参加しているところも不思議。曲自体もね、相当面白くてケヴィン・エアーズ独特のポップなメロディで「Urah Urah」と歌われるんだけど、ほぼユニゾンで二人で歌っている。こんなのをBridget St Johnが歌うのが面白い。そしてその歌声はケヴィン・エアーズの浮遊する歌い方とは対照的に地に着いた重みのある歌声。う〜ん良い曲だ。

 更にこれこそアヴァンギャルドポップスとも言うべきアルバムタイトル曲「Shooting at the Moon」なのだが、題名通り月を射つ、ってなもんで終盤まであくまでもポップ的に盛り上がりを見せてくれ、ここでもMike Oldfield大活躍なんだけど、テンション高い演奏が続いて最後の最後には正に月が爆発する音、ってのが入ってて面白い。というかこの発想ってユニークだよね。こういうセンスがシド・バレットとは角度が違うけどセンスが似ているというのか…ね。ってなことで実に楽しく明るくなってくるケヴィン・エアーズの作品の中でも名盤の域に入る傑作「Shooting at the Moon」です。

Robert Wyatt - Rock Bottom

 元ソフトマシーンという肩書きすらも今や遠い昔、今のワイアットのファンはそのことを気に掛けない世代が増えているのではないだろうか。80年代を風靡したラフトレードレーベルから作品をリリースしたことで新たな世代へ訴えかけたカンタベリーの重鎮。その世代に知られているのかどうか…彼が半身不随の人生を歩んでいるということを。

 ソフトマシーンからマッチングモウルと遍歴を重ねたワイアットだが、とあるパーティの席上で酔ってそのまま5階だか4階だかから落下してしまい下半身不随。ドラマーの道は絶たれてしまったが、彼の作曲のセンスと歌声の優しさを知る仲間達の助けもあり、1975年に発表したアルバム「Rock Bottom」が何と言ってもワイアット作品中最高の出来映えでしょ。もちろんドラマーとしての素晴らしさを収めた作品はソフトマシーンマッチングモウル、他にもいくつかのセッション物、例えばシド・バレットなどいくつもあるし、歌の良さを聴かせてくれたのはソフトマシーンマッチングモウルで経験済み。だからこそそのまま埋もれなくてよかったなぁと思える作品で、ワイアットのユーモアセンスと何と言っても優しさっつうか温かさみたいな、すごく人間味に溢れる作品になっているのが美しくて万人に聴いてもらいたいくらい素晴らしい作品。

 「O Caroline」や「Moon In June」と云った名曲と肩を並べる作品としては「Sea Song」かな。曲調が似てるってのもあるんだけど、この人のこういう曲ってのはホント淡々と歌われるんだけど、凄く優しさがにじみ出ていてさ、後半はもちろんグチャグチャになるんだけど、やっぱキレイで凄いなぁ、繊細な人なんだろうなぁとつくづく思う。このアルバムは復帰第一弾ってのもあるから余計に感情移入して歌われているんだと思うけど、カンタベリーの美しさ満載。もちろんアルバム制作を手伝ったメンバーってのはリチャード・シンクレア、ヒュー・ホッパーに加えてマイク・オールドフィールドと云うようなメンツなので、ま、カンタベリーになるでしょ。しかし最近のCDではアルバムジャケットが変わってしまていて、どうにも馴染みがなくていかん。オリジナルは白いヤツだったんだけどな。

 そして昨年、驚くべき歴史の記録がリリースされて寝た子を起こす騒ぎになったのがこの年の9月に行われたカンタベリー一派によるロバートワイアット船出記念ライブ「Theatre Royal Drury Lane」だ。参加メンバーがこれまた強烈で、デイヴ・スチュワート、ヒュー・ホッパー、マイク・オールドフィールド、ジュリー・ティペッツ、フレッド・フリス、ニック・メイソンなどなど…、これまた凄いライブ演奏が繰り広げられていて、ジュリーってのが凄い。残念ながら完全収録ではないけど、ワイアットの優しいだけではないロックな歌が聴けるし、アドリブプレイで聴ける旋律もやっぱこんなメンツなだけあって強烈。オフィシャルリリースに感謝感激の一枚♪。

Matching Mole - Matching Mole

そっくりモグラ  カンタベリー独特のポップ感覚のルーツを探るのは大変難しいんだけど、紛れもなくそんなポップセンスが溢れており、聞いていると実にホッとすることが多い。どんなにジャジーなフリーフォームな演奏が繰り広げられていても、ちょっと一息的な佳曲が必ずあったりするものだ。メジャーなところではキング・クリムゾンのファーストにおいての「風に語りて」と言ったところだね。ただしカンタベリーのそれとは大きく異なる、ある意味では対極に近いくらいかもしれないな。

 そんなことでキャラバンの浮遊感に乗せられて、今日はマッチング・モールです。…って誰?って言われるのかもしれないなぁ。昨日もマイナーモードに入るといきなりコメント&トラバなしっつう状態だからなぁ(笑)。で、マッチング・モールはロバート・ワイアットソフト・マシーンのあまりにもフリーフォームなジャズ的音楽への方向性にズレを感じて脱退した後、またしてもカンタベリー一派と呼ばれる面々、キャラバンから脱退したばかりのデイブ・シンクレア、フィル・ミラーなんかと一緒に組んだこれもまたフワフワとしたバンド。何と言ってもファーストアルバムが最高に美しくて素晴らしい。結局ロバート・ワイアットの音楽センスがもの凄く輝いていた時期なのかもしれないんだけど、美しい、という言葉しか思い付かないもん。ソフト・マシーン「Third」アルバムは2枚組全4曲の収録なんだけど、C面に収められたワイアットの「Moon In June」の美しいこと。それまでのソフツの作品からしたら完成度の高い一曲、となるんだけど、3枚目のアルバムは他が全編ジャズなのでもの凄く浮いていた一曲だったんだな。

 んで、マッチング・モールファーストアルバムの一曲目「O Caroline」も「Moon In June」以上にコンパクトに美しい作品。これを聞かないのはもったいない人生だよ、ホントに。もちろん他の曲も浮遊感たっぷりのまさしくカンタベリープログレッシブロックとしか云えないサウンドが詰め込まれていてたまらんっす。ロバート・ワイアットのドラムも良いし、シンクレアの鍵盤も浮遊感の源になってるし、効果音も凄くプログレッシブで表現できない美しさがあるね。ま、ソフツに近いと言えば近いんだけどさ。ジャケットも可愛くて好感持てるでしょ?